創作昔話
子「ねえ、おかあさん。寝る前に面白い話して」
母「面白いって、そうそう面白いネタなんて持ってないんだけど」
子「いいから!何か作れるでしょう」
母「そうだなあ…昔々…」
昔々、あるところに、くたくたに疲れ果てたお婆さんと、ボロボロにやつれたお爺さんが住んでいました。
二人はとても貧しくて、山奥の小さな古い小屋に住んでいて、友達もいませんでした。
ある日、山で枯れ枝を拾い集めて帰ってきた二人は、小屋の前に小さな猫がいるのに気が付きました。
お婆さんが言いました。
「うちに食べるものなんかないよ。さっさとどこかへお行き」
しかし、猫はその場を離れませんでした。
お爺さんは、小屋の戸棚の隅に落ちていた、埃まみれのゴミみたいな煮干しの頭を猫に投げました。
「こんなものしかないと分かれば、そのうちどこかへ行くだろう」
二人はその日、猫に構いもせず、小屋に入って戸を閉めて寝てしまいました。
猫は、それでも小屋に住み着きました。
山でネズミでも捕まえて食べるのか、猫はふくふくと大きくなっていきました。
特に手もかからないので、お爺さんとお婆さんは、猫が居つくのをそのままにしました。
そのうち、猫の毛を撫で付けてやったり、一緒に日向ぼっこをしたり、草を揺らしてじゃらしてみたり、布団に入れてやったり、なんだかんだ可愛がるようになりました。
猫はますますふくふくと大きく可愛らしくなっていきました。
お爺さんとお婆さんは、相変わらずクタクタでボロボロでしたが、
なんとなく楽しく暮らしました。めでたしめでたし。
子「え〜、なんかやだ」
母「なんでよ、猫が来てよかったじゃん」
子「違うよ、昔話といえば、最後はなんかこう金銀財宝とか出てきてお金持ちになったりするじゃん」
母「しょうがないなあ、お金持ちにしてやるか」
ある日、お殿様が小屋の前を通りかかりました。
お爺さんとお婆さんが平伏していると、お殿様が二人に声をかけました。
「そこの猫は其方のものか」
「は、ははー」
「ふくふくとしていて良い猫じゃ。譲ってくれんか。礼はいたすぞ」
お婆さんとお爺さんは顔を見合わせ、そして猫を見ました。
「ありがたいお言葉ですが、これは殿様に差し上げるような大層な猫ではございません」
「そんなことはないぞ。良い毛艶で、何よりその福々しい顔。縁起が良さそうじゃ」
殿様は家来に命令して、何かを用意させました。
「これくらいでどうじゃ」
家来が二人に差し出したのは、黄金色に輝く大量の小判でした。
お爺さんとお婆さんは眩い金貨に目がくらみ、思わず受け取ってしまいました。
殿様は猫を抱き上げて連れて行ってしまいました。
二人の元には、余生を何不自由無く過ごせる大金が残されました。
でも、猫はいません。
お爺さんとお婆さんは、それから二人で寂しく過ごしましたとさ。
子「それはダメー!」
母「なんでよ、お金持ちにしたかったんじゃないの?」
子「そうじゃないの、猫いなくて寂しいじゃん。そんなの悲しいからダメ」
母「注文が多いなあ…」
お爺さんとお婆さんは、猫のいない暮らしがあまりにも辛く悲しくなったので、もらった小判を返して猫を取り戻そうと、お殿様の城へやってきました。
「このとおり、いただいた小判はそのままお返しします。猫を返してください」
「嫌じゃ。この猫はわしのものじゃ。交換した以上今更返せとは言わせん」
お爺さんとお婆さんと殿様が、猫を巡って言い争いを始めると、猫は耳の後ろをカリカリっと掻き、ふわあと大きなあくびをして、グイッと伸びをして、お城をピョーンと飛び出してしまいました。
争っていた三人は大慌て。お城の外へ猫を探しに行きました。
猫はお城の近くのどこにも見つかりません。
二人の小屋にも見にいきましたが、やはりいません。
山道をとぼとぼ歩いていると、お爺さんとお婆さんの小屋よりももっと小さくてボロボロの小屋がありました。
三人が覗き込むと、垢だらけで痩せぎすの見知らぬ子どもと、あの猫が、寄り添って寝ているではありませんか。
「この子には親はおらんのじゃろうか」
「飯も食ってなさそうじゃ」
「猫を取り上げては可哀想じゃの…」
お殿様にもらった小判で、お爺さんとお婆さんは子どもの住む小屋を建て直してやりました。
お殿様は、国に住む孤児たちに毎月米を送ることにしました。
三人は、何かと子どもの世話をしに通い、子どもと猫と楽しく過ごしましたとさ。
おしまい
子「面白かった!」
母「そうかい。おやすみ」