痴漢行為が悪い。痴漢擁護も悪い。
渋谷ハロウィンで痴漢が出る/「仮装して行く方が悪い」?
この10月末のこと、渋谷に仮装した人たちが押し寄せ、大変な騒ぎになっていたらしいですね。
軽トラがひっくり返されたとか、痴漢が出たとか。
私はもう、仕事か何かなければ渋谷には立ち寄りもせず、テレビも見ないのでネットのニュースやTwitterでそんな出来事を知りました。
「まあ、いつの時代も若者ってのは集まって騒ぐととんでもないことするよね」
「しかしトラックの持ち主はお怒りだろうな」
「痴漢は刑事司法手続を経たのち更生プログラムを受けろ」
なんて感想だけ持って通り過ぎるニュースだと思っていたのですが、あれあれ?ちょっと見過ごせない取り上げ方がされているようです。
「はぁ?」
痴漢されるのがその場に赴いた女性の自己責任?
いやいやいやいや、それは無いでしょう。
「痴漢に遭うのは怖いので、私は行きません(´・ω・`)」 というのは、それはもちろん個人の自由な選択で何の問題も無い話。
しかし、 「痴漢がいるのが分かっていて行く方が悪い」 というのはおかしい。
しかし悲しいかな、中には女性も含めて「行く方も悪い」という人は散見されました。
Twitterでも見かけました。
実際に痴漢にあったという若い有名なモデルさんが「仮装してるから自分のせいなんだけど」などと発言していて、少なからずショックを受けました。
痴漢についてのいくつかの誤解を解く
大体、痴漢って、どこにでもいるじゃないですか(誤解1:痴漢は人混みに出没する)。
あ、痴漢しない、被害も受けないという男性には分からないかもしれないですが、本当にどこにでもいますよ。
満員電車に多いのはよく知られていると思いますが、人の多い場所だけではありません。本屋でも、プールでも、高速バスでも、公園でも、田んぼのあぜ道でも、どこでも痴漢被害の報告ってあります。
また、これも誤解が多いことですが、被害者の服装がどんなものかは関係がないです(誤解2:痴漢は扇情的な服装等に欲情して行為に出る)。
こちらのリンクは、性暴力被害*1を受けたとき、被害者が着ていた服を集めたという展覧会だそうです。
セクシーな衣装がズラリ……ではないですよね。
ごく普通の普段着が多いかな。
露出度高いと見えたのは、説明文見ると水着みたいですね。ビキニとしては一般的なレベル。
中には明らかに子どもサイズの服があるのが痛ましい。
同様のコンセプトで行われたファッションショーの動画も見つけました。
4分弱の動画です。英語ですが、字幕(自動翻訳)もあるようですので、ぜひどうぞ。
つまりですね、
どこにいようが、何を着ていようが、痴漢被害には遭うのです。
「とはいえ自衛できるなら自衛すべきでは?」論
もっとも、その点の誤解を解いてもなお、 「そうは言っても、明らかに痴漢が多い場所だと分かっていて行ったなら自己責任では?」 という人もTwitterでたくさん見かけました。
そりゃねえ…痴漢が多発していると聞けば、自分は行きたくはないですよ。
娘が「行きたい」って言っても(まだ6歳なので)連れて行きません。
でも、実際に行って痴漢被害に遭ったという人を自己責任だと言って批難するのは筋違いではないでしょうか。
例えば、明らかに痴漢が多い場所と言えば、電車がありますね。
私が通勤で使う最寄駅の路線も、なかなかの混雑ぶりです。
私も学生時代から同じ路線を使っていますが、痴漢とバレにくい微妙な痴漢行為*2を働く輩が多かったです。
子どもが高校生になれば、この路線で満員電車での通学を余儀なくされるかもしれません。
そんなとき子に、
「いや、この路線は痴漢が多いから、電車は使わないでバスを乗り継いで40分かけて通学しなさい。電車を使うなら痴漢に遭っても自己責任です」
って、言えます? 言えませんよね。
そもそもバスなら大丈夫って訳でもないですし。
また、こういう例えを出すと 「そりゃ通学はやむを得ないでしょうけど、ハロウィンは違うでしょ。行かなくたって困らないでしょう?」 という論者も出てくることでしょう。
これに対しては良さげなツイートがありましたので紹介します。
👧「よし‼️痴漢に触られるようなもんって言われないように女性が自衛しなきゃ‼️」
— エブチュラム真理栄 (でも、ドルちゃんって呼ばれてるよ!) (@dor_cyan) October 31, 2018
渋谷スクランブル交差点は避ける✋
もちろんお祭りも痴漢多いから行けないね✋
公園も女児が痴漢に遭うから避けなきゃ✋
電車なんか痴漢の巣窟だから乗れないね✋
通り魔痴漢も多いから外出も避けよう✋
→???
ね?女性が行ける場所、どんどん無くなります。
しつこい方だと、公園と祭りの間に線を引いて「ここまで自己責任」とか言い出す人も出てくるかもしれませんね。
しかし、男性なら挙がったどの場所に出かけても非難されないのに、女性だと非難されるとなってくると……
これって、差別じゃないですか。
痴漢被害者自己責任論の何がマズイって、結局のところ差別だからじゃないかと思うのです。
また、被害者に責任を負わせることで、痴漢の責任を一部免れさせようとしているわけで、立派な「痴漢擁護」だと思うのですよ。
私は、「痴漢行為が悪い。自己責任論を振りかざして痴漢を擁護するのも悪い」と考えています。
被害女性が自己責任論を言い出すわけ
さて、ここまでで終わっても良いかと思いましたが、せっかくなのでもう少し。
実際に痴漢にあったという方が「仮装してるから自分のせい」とツイートされていた件について少し触れたいと思います。
このツイートには色々な意味でショックを受け、私も長々とツイートをしました。
引用リツイートなので、ここに貼ってしまうと元発言者の方を晒し上げているように見えそうなので、私のツイートの趣旨を以下に要約します。
「自分のせい」なんて言わないで欲しいと思う。
一方、彼女はきっと「そんな格好で行くのが悪い」って言葉をこれまで無数に投げかけられてきたんだろうなとも思う。
どんな格好であれ、どんな人混みであれ、触ってはいけない。触ることの方が絶対に悪い。著名な方にはそう発信してほしい。
でもまだ20歳の彼女がそう発信しないことを私は責められない。
自分が20歳のときなんてそれどころじゃなかった。
だから、私は彼女に「それは違うよ」と「こんな環境を変えずに来てしまってゴメンね」を言いたい。
本当に正直に言うと、私も20歳の頃なら、たぶん自己責任論に乗ってしまっていたと思います。
なにせ、本当にずーっと周りから言われてる訳ですよ。
私だけでなく、たぶん多くの女性が。
実際に痴漢に遭って通報したら「そう言う服装をしているとね」って警官に言われますし。*3
母親から「あんたに隙があるからそんな目に遭うんだ」って言われたりもしますし。
テレビでもおっさん芸能人が「そのスタイルなら触られても仕方ない」みたいなセクハラ発言しまくってますし。
ましてや、若い女性の芸能人なんて、目立つほどに訳の分からない批判を受けまくりますからね。
この種の批判にさらされ続けたら「あれ?やっぱり私が悪いの?」って思うでしょうよ。
そういう空気の中で自分を貫くのって、ものすごい強さが必要だと思います。
だから、まだ若いこの方を責めることはできないなと思いました。
しかし、本当は、こんな空気を、女性差別を、もっと早くにぶち壊しておくべきだったと、私は今更ながらに後悔しているのです。
娘が産まれて、娘がなんか彼女なりの夢とか持って、ひょっとしたら医大目指したりするかもしれないってのに、入試に女性差別が残ってるとかさ。
ひょっとしたら公務に関わるかもしれないのに、官僚がセクハラして大臣が「セクハラ罪はない」とかふざけたこと言うとかさ。
通学するかもしれない路線に痴漢が出没するとかさ。
お祭り大好きなのにお祭りで痴漢に遭ったら「自己責任」とか批難されるなんてさ。
想像したらちょっと血管切れそうなほど嫌なわけですよ。
(というか、もっと上の世代、何してくれてんねん!とも思いますが……)
なので、微々たる力しか持ち合わせておりませんが、とにかく声を上げることはしたいなと思った次第です。
痴漢は撲滅できるのか
最後に、この記事を書くにあたり、調べていたら興味深い記事を見つけました。
痴漢は依存症ということについて触れられた本があるそうです。
こうした論調の記事を紹介するにあたっては、「依存症だから痴漢は悪くない、被害者は痴漢を許せ」と言いたい訳では全く無く、「被害は深刻であり、治療できるのであれば治療して痴漢行為を撲滅してほしい」と切に願っているということを申し添えておきます。
しつこく「痴漢が悪い」と言わなきゃならないのは、被害者の方が理不尽に責められてしまう現在の風潮に対抗するためなので、痴漢依存症治療を促進するためにも、ぜひ性差別と被害者自己責任論*4は平成で葬り去ることにしましょう。
↓痴漢抑止アプリ。私もインストールしてます。
*1:痴漢も性犯罪ですので、被害者の服装なんてものを集めたらほぼ同様の結果になるはずです。体感的にも、地味で目立たない服装なら被害に遭わないとは考え難いです。
*2:育児で鍛え上げられた厳ついおばさんとなった今、身長変わらず横幅増えたのに脇を肘でつついてくる輩がいなくなりました。普通に座っていれば隣の人の脇に肘は当たらない模様です。
*3:なんだかちょっといい話風にしてるけど、男性警官とんでもないぞと思う記事ですね。大体、警察官なら性犯罪がどこでどんな風に起きてるかよくご存知でしょうに、なぜそんな被害者いじめを……。
*4:自己責任論と言えば、ジャーナリストの安田さんに対しても酷いバッシングがあったようですね。自己責任論がいかに社会をダメにするかについて触れた記事も見つけましたので紹介しておきます。